裏側矯正(舌側矯正)専門医ができるまで
1.タマゴからヒヨコへ 1994-2000 札幌
裏側矯正(舌側矯正)は
医療>歯科医療>矯正歯科>裏側矯正(舌側矯正)
となり医療の中の極めて限定されたフィールドです。
しかし裏側矯正(舌側矯正)の治療を続けているうちに、このフィールドは実に大きな可能性と広がりを持っているのだ!と考えるようになりました。
北海道大学を卒業し、運よく歯科医師国家試験に合格した一人の新人歯科医師が裏側矯正(舌側矯正)専門オフィスを立ち上げるまでの話。
札幌は本当に素敵な街です。冬はきついけど・・。
歯科医師とは?矯正歯科医とは?
歯科大学生が歯科医師国家試験に合格した瞬間“新人歯科医師という名のタマゴ”が誕生します。
彼は、自らが望めば矯正歯科・口腔外科・予防歯科etcあらゆる歯科医療行為を行うことが許可されます。もちろん裏側矯正(舌側矯正)だって・・。
*現在ではインターン制度がとられるようになったらしい。
しかし現実には、このライセンスは技術を伴わない基礎知識レベルのものであって、臨床の場でこのタマゴはほとんど機能しません。
ベテランの歯科衛生士あるいは患者さん自身のほうがよっぽど治療に対して高い見識と経験を持っています。
タマゴはこれらの人々に“割られない程度”に刺激を受け・教えられて育つのです。
* 特に裏側矯正(舌側矯正)を希望される方は、審美性(見た目のキレイさ)に関する要望が高く、様々なメディアを通じて裏側矯正(舌側矯正)だけでなく矯正歯科全般について詳しい知識を持っていることが多いです。
通常ライセンスを取得した新人ドクターには以下の3つの選択支が用意されています。
1.大学院に進学して研究活動にいそしむ
2.専門教室(矯正歯科・口腔外科・保存科・補綴科・歯科麻酔科・小児歯科・予防歯科)および大学病 院に属して、専門分野の基礎を叩き込まれながら、外来での臨床、学生の教育に従事する
3.大学を離れ開業医のもとで勤務医として働く
自分には
「矯正歯科の技術を身につけて矯正歯科専門医として開業したい!」
という希望があったので、3.大学の矯正歯科教室コースへと進みました。
当時は“矯正歯科専門クリニック”の中でも裏側矯正(舌側矯正)をメインとすることなんて想像すらしていませんでした。
北大の矯正歯科教室
いつの間にかこんな長ーい名前になってました!
北海道大学大学院歯学研究科・口腔機能学講座・歯科矯正学講座
北海道大学病院 歯科診療センター 咬合系歯科C診療科・矯正歯科専門外来
1年目は矯正歯科の基礎を学ぶ期間です。
“特訓”と呼ばれる新人研修用カリキュラムがあり、ワイヤー曲げ、歯科技工、レントゲンのトレース・分析etcでめまぐるしく日々が過ぎていきます。
タマゴたちはこの時期に体力の限り鍛えられるのです。
基本的な矯正歯科治療の進め方・考え方は、この時期に学びます。
ただし、裏側矯正(舌側矯正)に関するカリキュラムは組まれていません。
*きっとこれはどこの大学でも同じではないでしょうか?自分が医局を退職してから何名かの先生が外来で裏側矯正(舌側矯正)をやっているという話は聞きましたが。
やがて、厳しい特訓のなかで、中身が悪くなってないことが確かめられたタマゴは“くじ引きという名の神の手(もしくは政治的手腕?)”によって、自分の“師匠”となる医局の先輩ドクターに引き取ってもらいます。
北大の矯正歯科は医局員がとても多く(30人くらいだったかな?)基本的に、タマゴは全てもらわれていきます。(特訓中に割れてしまったタマゴ以外は・・)
自分は同じ秋田出身で今でも尊敬する大先輩A先生に師事することになります。
A先生は人間的にも臨床的にもプライベートでも学ぶべき点の多い先生でした。
現在は秋田で矯正歯科専門で開業され大成功されています。
この時点では裏側矯正(舌側矯正)の存在すら知りませんでした。
やがて師匠のもとで臨床や技工作業の手伝いをさせてもらいながら技術を身につけていくのです。
ちなみに裏側矯正(舌側矯正)はカスタムメードで装置を作るため、技工作業は非常に重要になります。
2年目くらいになると、新患配当といって外来長から自分が主治医となって診させていただく患者さんが割り当てられます。
矯正歯科相談から検査・診断・治療計画・治療と表向きは自分が主治医なのですが、実際には“症例検討会”という医局会があり、自分のプランを教授・助教授・講師・助手・その他全ての医局員の前で発表し、練り直していくのです。
診療に関しても、治療前後に師匠のチェックを受け間違いのないように進められます。
しかし札幌では矯正歯科専門で開業しているドクターが多い、大学病院の患者数が少ない、医局員が多いこと等が原因してか、とにかく配当される患者数が少なく、なかなか臨床の経験値を上げることが出来ませんでした。
当然、裏側矯正(舌側矯正)の治療は行われていませんでした。外来としても「裏側矯正(舌側矯正)という矯正歯科治療の方法がある」という説明はしていなかったと思います。
そんなことが6年目くらいまで続きました。
その頃には後輩もでき、外来診療の他に休日を利用してOBの矯正歯科専門開業医のもとでアルバイトをさせていただく機会ができます。
アルバイト先の中には、かなり患者数が多いクリニックもあり、その中で大学病院とは違う“時間の流れ”や“開業医の雰囲気”をほんの少しだけ感じ取っていました。
しかし、裏側矯正(舌側矯正)の治療は2例しか見たことがありませんでした。
ほとんどの開業医は大学病院と同じように、裏側矯正(舌側矯正)をメニューの中に入れる(少なくとも積極的には)ことはしていないようでした。
医局時代は、生活を維持するのにも必死でした。
基本的には「臨床研究生」という立場で、“無給”なだけでなく“年間40万円の授業料”医局に払っていました。
医局員は多かったのですが、国から給与が支給される枠が決まっているため、タマゴたちは基本的に無給(&無休)なのです(稀に“医員の枠が空く”といった妙な事態があり半年くらい10万円程の支給がありました)。
では、タマゴたちはどうやって生活しているのか?
アルバイトです。
矯正歯科のアルバイトは人気があったのですが、数が少なく4年目くらいにならないと紹介してもらえませんでした。
また矯正歯科を学ぶために入局したわけですが、当時は
“矯正歯科のバイトは医局から配当される以外は行ってはならない”
という規則があり、いわゆる一般歯科の開業医の先生のもとで、おぼつかない入れ歯やおぼつかない抜歯をしていただいた給与で生計を立てていました。
臨床的にも経済的にもおぼつかないまま月日が流れていきます。
裏側矯正(舌側矯正)とはほど遠い日常。
タマゴはヒヨコになれたのか?







